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仙台地方裁判所 昭和28年(行)9号 判決

原告 佐藤保之助 外五名

被告 宮城県知事

一、主  文

原告等の本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告が別紙第一ないし第四目録記載の土地につきなした買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。即ち別紙第一ないし第四目録記載の土地はもと原告保之助、啓之助、惣七郎、亀之助、菊之助及び原告惣之助の家族であつた佐藤六郎、同佐藤富雄以上七名の持分平等の共有であつたが、原告惣之助は昭和十八年六月十五日右六郎の死亡に因り同人の持分を又昭和十九年九月二十一日富雄の死亡に因りその持分を、何れも戸主として遺産相続をなした。

仙台市中田農地委員会は昭和二十二年三月十三日別紙第一目録記載の農地につき、同年十一月十四日同第二目録記載の農地につき、同年十月十一日同第三目録記載の農地につき、昭和二十四年二月十二日同第四目録記載の宅地につき、それぞれ買収計画を定め、被告は右買収計画に基いてこれを買収すべきものとし、原告惣之助に対して買収令書を交付した。

然しながら右第一目録記載の農地に対する買収令書は、その宛名を原告亀之助、啓之助、保之助、菊之助、惣七郎及び佐藤六郎、佐藤富雄と各別に表示した七通となつているが、これ等買収令書における買収すべき農地の表示は何れも「別添の通り」としてあつて右七通に共通する一通の目録を付し、然も右令書には全くその表示されていない原告惣之助に対し、これを一括して交付し、他の原告等にはこれを交付しない。又第二ないし第四目録記載の土地に対する買収令書の宛名は単に「佐藤亀之助外六名」と表示して右「外六名」とは果して誰を指すのかは明かにされておらず、且つこれ亦原告惣之助のみに交付して、他の原告にはこれを交付しない。

かような方式によつてなされた買収処分は無効であるから、その確認を求めるため本訴請求に及ぶ次第であると陳述し、

被告主張の事実中右買収計画樹立当時本件土地の登記簿上の所有名義が被告主張のようになつていた事実は認めると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告等主張の事実中本件買収令書が原告等主張の通り、原告惣之助のみに交付されて、その余の原告等に交付されなかつたか否かは、その後相当の日時を経過した今日ではこれを詳にすることができない。その余の主張事実はすべて争わない。

本件土地はその買収計画が定められた当時登記簿上惣之助を除くその余の原告等及び佐藤六郎、佐藤富雄以上七名の共有名義になつていたので仙台市中田農地委員会はこれに基いて買収計画を樹立し被告は右買収計画に基いて買収処分をしたのであるが、仮に原告等の主張する如く買収令書の交付が、原告惣之助に対してのみ交付され、その余の原告等に交付されなかつたとしても、右惣之助に対する買収令書の交付は遅くも昭和二十四年中にはそれがなされ、買収の対価も亦昭和二十三年四月五日及び昭和二十五年七月十八日の二回に亘り、その全額の支払を了し、且つ右買収による所有権移転の登記をも経由し、原告等は買収の事実を承認し来り、今日迄相当の日時を経過したのであるから、右買収処分の瑕疵は、もはや治癒されたものというべきであると述べた。(立証省略)

三、理  由

別紙第一ないし第四目録記載の農地及び宅地はもと原告惣之助を除く、その余の原告等及び亡佐藤六郎並に亡佐藤富雄の持分均等の共有であつたが、原告等主張の経過により惣之助が、右六郎及び富雄の共有持分を取得し、原告等六名の共有になつたこと、その後原告等主張の日時仙台市中田農地委員会が、右土地につき自作農創設特別措置法により買収計画を定めたこと、右買収計画を定めた当時未だ原告惣之助の相続に因る持分移転の登記が経由されず、依然前記七名の共有名義になつていたことは当事者間に争がなく、右各買収計画において所有者を右登記簿上の名義にしたがい表示したとの被告の主張は原告等が明かに争わないから自白したものとみなす。

しかして何れも成立に争のない甲第一ないし第四号証に原告佐藤惣之助、同佐藤保之助各本人尋問の結果並に弁論の全趣旨を綜合すれば、被告は右土地の買収のために、別紙第一目録記載の農地については原告保之助、啓之助、惣七郎、亀之助、菊之助及び佐藤六郎並に佐藤富雄各人を宛名とした買収令書計七通(但し買収すべき農地は各通とも「別添の通り」として、その詳細を一通の目録に譲つたもの)を一括して、これを原告惣之助に交付したが(交付の時期は、昭和二十三年四月五日に対価が支払われている事実に徴し、遅くも同日以前であることがわかる。)他の原告等にはこれを交付せず、又別紙第二、三目録記載の農地及び第四目録記載の宅地については買収令書の宛名を単に「佐藤亀之助外六名」とし右「外六名」とは果して何人を指称するのかを明かにせず、右三通の買収令書を原告惣之助に交付したが(各買収令書の発行日附は第二目録記載の農地に対する令書は昭和二十二年十二月十日、第三目録記載の農地に対する令書は昭和二十三年十月十日、第四目録記載の宅地に対するものは昭和二十四年三月十日であるから反証のない限り、凡そその頃買収令書が交付されたと認めるべきである。)その余の原告等にはこれを交付しないことを認めることができる。(尤も以上の事実中買収令書の方式に関する部分は当事者間に争がない)。

よつて右買収令書の交付による買収処分の効力について判断するに、右認定事実によつて考えると、被告は右買収処分に当り、本件各土地を、右買収計画に表示された七名の共有であると認定した上で之を買収したものであることは明かである。然るに右のうち別紙第一目録記載の土地に対する買収令書に共有者として明示し、或は同第二ないし第四目録記載の土地につき暗黙の裡に所有者「佐藤亀之助外六名」中の一員としてこれを表示したと認め得る(この点は後に詳論する)亡佐藤六郎及び亡佐藤富雄は当時すでに死亡して実在せず、同人等がかつて有していた共有持分についての真実の権利者は右両名からその持分を相続に因り承継した原告惣之助であるから、この点において被告のなした買収処分は少くとも右持分に関する部分についてはその相手方を誤つた違法があるといわなければならない。

けれども原告佐藤惣之助、同佐藤保之助各本人尋問の結果によれば、右佐藤六郎及び佐藤富雄等の相続人であり且右買収令書の受領者である原告惣之助から前記買収計画中右両名に関する部分に対し異議が述べられずに確定し、又右買収処分中同部分についても同原告から法定期間内にその取消を求める訴訟の提起がなかつた事実が認められるから右買収処分はその効力が確定し、もはやこの点を捉えて買収処分が無効であるとすることはできないというべきである。

次に別紙第二ないし第四目録記載の土地に対する買収令書において、その宛名を「佐藤亀之助外六名」としてその「外六名」が何人であるかを個々に明示しない点も亦違法であることを免れない。被告は買収処分の基礎をなす買収計画において、これを明かにしたと主張するけれども、たとえ買収計画においてこれを明かにしたからとて、買収処分においてはその表示があいまいであつても妨げないとすべき道理はない。

けれども前記認定事実に徴し右にいう「外六名」とは、被告において前記の如く本件土地に対する買収計画に表示された原告保之助、啓之助、惣七郎、菊之助と、亡佐藤六郎及び亡佐藤富雄以上六名を指称する意図に出でたものであることは殆んど容疑の余地がなく、原告等においても、これをその趣旨に解したからこそ後記の如く、右土地の買収対価を請求、受領し、且つそれを六郎、富雄両名の相続人惣之助及びその余の原告等五名において各持分に応じ分配したものとしか考えることができない。さすれば、この程度の瑕疵は原告等の右対価の受領により、もはや治癒されたものといわなければならない。

更に被告が直接には原告惣之助だけに右買収令書を交付した点につき考えてみると、原告惣之助はその被相続人六郎及び富雄から相続に因り承継した本件土地の共有持分につき、たとえ被相続人宛のものではあつても、事実上買収令書の交付を受けたのであるから何等の実害がなく、他の原告等と同様の意味における買収令書交付の欠缺があるものということはできないし、同原告はその余の原告等に対する買収令書交付の欠缺を主張する趣旨であるとしても(買収令書交付の欠缺は後日補充せられたと認めること後記の如くであるが)他の原告等に対し、買収令書が交付されないことによつて同原告に対する買収処分に如何なる影響を及ぼし、どのような権利が害せられるのかこれを明かにする主張立証がない。故に原告惣之助のこの点の主張はその理由がない。又前に認定した事実関係からして同原告以外の原告等に対しては、被告は原告惣之助をその代理人として本件買収令書を交付した趣旨と観るのを相当とするところ、惣之助に対し他の原告等が事前に買収令書の受領権限を与えた事実は認め得ないけれども、原告佐藤惣之助、同佐藤保之助各本人尋問の結果を綜合すると、原告惣之助は被告から右買収令書を交付を受けた後、他の原告等に対し、その来訪を受けた機会などに見せたり、遠隔の地に在る原告等に対してはこれを郵送する等して、その内容の周知を期し、又右令書に記載された買収対価は原告保之助若くはその他の原告等のうちの何人かが(但し原告惣之助ではない。)政府の対価支払機関である日本勧業銀行仙台支店に赴き、これを請求して受領し(別紙第一目録記載の農地に対する対価は昭和二十三年四月五日、同第二、三目録記載の農地に対する対価は昭和二十五年七月十一日に支払を受けた。同第四目録記載の宅地に対する対価支払の時期はこれを確定し得ないけれども、その時から本訴の提起まで、すでに半歳以上を経過していることは確かである。)原告等一同異議なく、その持分に応じてこれを分配した事実を認定することができるから、原告惣之助を除くその余の原告等は右対価の請求もしくは受領によつて惣之助が同人等に代つて為した買収令書の受領行為を追認したものと観るのを相当とする。

以上の次第であるから被告のなした右買収処分が無効であるとして、その確認を求める原告等の本訴請求はその理由がないので、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第九十五条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 松尾巖 飯沢源助 山下顕次)

(目録省略)

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